運動会・遠足・行事と健康管理――ハレの日を、みんなで安全に楽しむために

園ナースの日々と小さな気づき

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行事の前日、園ナースの頭の中

運動会の前日の夜、わたしはいつも少し眠れません。明日の天気は大丈夫か、気温はどのくらいになるか、体調不良の子どもが出ていないか、救急セットの確認は済んでいるか、スタッフ全員が緊急時の対応を把握しているか……。次々と確認事項が浮かんできて、頭が休まらない。それは不安というよりも、「明日、子どもたちに安全に楽しんでほしい」という責任感から来るものです。

保育園の行事は、子どもたちにとって特別な日です。運動会、遠足、お遊戯会、七夕、お泊まり保育……。日常とは少し違う「ハレの日」の体験が、子どもたちの心に深く刻まれます。その特別な日を、安全に、そして思いっきり楽しめるように整えることが、行事における園ナースの大切な役割です。

でも、行事の日は、日常とは異なる環境と状況が重なります。普段とは違う場所、いつもより長い時間、多くの人の目、保護者の期待……。そのすべてが、子どもたちの心身に、いつも以上の負荷をかけることがあります。「楽しいはずなのに、体調を崩した」「遠足から帰ったら、熱が出た」「運動会が終わった翌日から、ぐったりしている」――こうしたことは、保育の現場ではよく起きることです。行事の「楽しさ」と「負荷」を同時に見ることが、園ナースとしての視点です。

行事の健康管理は、当日だけではありません。前日の準備、当日の対応、翌日のフォロー。この三つをひとつながりのものとして考えることが、行事における健康管理の基本だとわたしは思っています。華やかな行事の裏側で、地味に、でも丁寧に、準備と観察と対応を積み重ねること。それが、園ナースとしての行事への関わり方です。

行事前の健康チェックと、保護者への発信

大きな行事の前には、子どもたちの健康状態を例年以上に丁寧に確認するようにしています。特に、行事の一週間前から、体調不良の子どもの動向を把握しておくことが大切です。クラスで風邪が流行り始めていないか、嘔吐や下痢の子どもが増えていないか、発熱者が続いていないか。こうした情報を担任の保育士さんと共有しながら、「今週の健康状態の傾向」を把握しておきます。

行事の前週に感染症が流行している場合、行事当日に欠席者が多く出る可能性があります。その情報を早めに園長先生や主任の先生と共有し、必要に応じて保護者へのお知らせを出すことも、園ナースの役割のひとつです。「現在、クラスで風邪症状の子どもが増えています。お子さんの体調をよく確認したうえで、当日の参加をご判断ください」という一言が、保護者の適切な判断を促します。

また、行事前には保護者への健康管理の注意喚起も大切です。「行事の前日は早めに寝かせてください」「当日の朝食はしっかり食べさせてください」「体調が優れない場合は、無理に参加させないでください」といったメッセージを、おたよりや掲示で発信することが、当日のトラブルを防ぐことにつながります。保護者も「せっかくの行事だから、多少体調が悪くても参加させたい」と思う気持ちがあります。その気持ちを理解しながら、「無理をすることで、より体調が悪化することがある」ということを、丁寧に伝えることが大切です。

当日の救急セットと、スタッフへの共有

行事当日の準備として、救急セットの確認は欠かせません。絆創膏、ガーゼ、包帯、消毒液、冷却シート、体温計、使い捨て手袋……。日常の保健室にある物品が、行事の会場にも揃っているかを確認します。屋外での行事の場合は、携帯できる救急バッグを準備し、園ナースが常に持ち歩けるようにしておきます。

また、エピペンを処方されている子どもが参加する場合は、当日の持参と保管場所の確認、使用のタイミングと方法をスタッフ全員で再確認することが必要です。アレルギーのある子どもが、行事のおやつや給食で誤食しないよう、食事の提供についても事前に入念に確認します。行事という非日常の場では、普段のルーティンが崩れやすい。だからこそ、事前の確認をより丁寧に行うことが重要です。

スタッフへの共有も、行事前の大切な仕事です。「今日、体調が気になる子どもは誰か」「緊急時の連絡体制はどうなっているか」「AEDはどこにあるか」「救急車を呼ぶ判断は誰がするか」……。こうした情報を、当日の朝に全スタッフで確認することで、いざというときに全員が迷わず動けます。行事の準備は、子どもたちのためだけでなく、スタッフ全員が安心して当日を迎えられるための準備でもあります。

運動会という、特別な緊張感

運動会は、保育園の行事の中でも特に大きなイベントです。子どもたちは何週間も前から練習を重ね、当日は保護者や祖父母が応援に来てくれる。その特別な雰囲気が、子どもたちを高揚させると同時に、緊張やプレッシャーをもたらすこともあります。「いつもはできるのに、本番で緊張してしまった」「練習では元気だったのに、当日は体調を崩した」という経験は、保育の現場でよく聞かれます。

运動会当日、園ナースとして特に気にかけていることがあります。それは、「緊張による体調変化」です。腹痛、頭痛、吐き気、食欲不振……。これらは、心理的な緊張が体に現れたものである可能性があります。「おなかが痛い」と言ってきた子どもが、医療的な問題ではなく、緊張やプレッシャーから来る体の反応であることは、運動会の日にはよくあることです。そういうとき、まず体の状態を確認しながら、「緊張しているの?」と優しく聞いてみる。「うん、ちょっとドキドキする」という答えが返ってくることがあります。

そういう子どもには、「ドキドキしていいんだよ」「みんなもドキドキしているよ」「ドキドキするのは、頑張ろうとしている証拠だよ」と声をかけます。緊張を「悪いもの」として否定するのではなく、「頑張ろうとしているエネルギー」として受け止め直す言葉が、子どもの気持ちを少し楽にすることがあります。そしてしばらく保健室で落ち着いてから、「行ける?」と聞く。「うん、行く」と言って、颯爽と走り出す子どもの背中を見るとき、園ナースとしてとても嬉しい気持ちになります。

熱中症と、屋外行事のリスク管理

秋に行われる運動会でも、近年は気温が高い日が続くことがあります。「秋だから大丈夫」という過信は禁物で、気温と湿度の確認、日差しの強さの確認を、当日の朝から行うことが大切です。WBGT(暑さ指数)を確認し、危険なレベルに近い場合は、プログラムの変更や休憩の追加を、園長先生と相談します。

屋外での運動会では、こまめな水分補給の機会を設けることが重要です。プログラムの合間に「みんなで水分補給タイム」を入れることで、子どもたちが自然に水を飲む機会を作れます。また、テントや日よけで日陰を作り、出番以外の時間は日陰で過ごせるよう配慮することも、熱中症予防として大切です。

体調が悪くなった子どもへの対応スペースも、事前に確保しておきます。涼しくて静かな場所、横になれるスペース、水分補給のできる環境……。当日になって「どこで対応しよう」と慌てないために、事前に「もしも」の対応場所を決めておくことが、スムーズな緊急対応につながります。保護者が多く集まる行事では、何かあったときに保護者が不安になりやすい。落ち着いた環境で、冷静に対応できる場所を確保しておくことが、子どもへの対応の質を守ることにもつながります。

遠足の健康管理――「いつもと違う」場所での備え

遠足は、保育園の外に出る行事です。「いつもと違う」場所、「いつもと違う」移動手段、「いつもと違う」食事(お弁当)……。その「いつもと違う」の積み重ねが、子どもたちにとっての冒険であり、楽しさの源でもあります。でも同時に、「いつもと違う」環境は、リスクも変わることを意味します。

遠足前の準備として、まず訪問先の環境を把握しておくことが大切です。公園や動物園、山や海……。その場所で起きやすいリスクは何か、最寄りの医療機関はどこか、緊急時の連絡体制はどうなっているか。こうした情報を事前に確認しておくことで、いざというときの対応が速くなります。

また、参加する子どもたちの健康情報を、担当スタッフ全員で共有しておくことも重要です。アレルギーのある子ども、てんかんや喘息などの慢性疾患のある子ども、乗り物酔いをしやすい子ども……。「この子にはこういう配慮が必要」という情報が、遠足に同行するすべてのスタッフの頭に入っていることが、安全な遠足の基本です。担任の保育士さんだけが知っている状態では、担任が他の場面で対応しているときに、サポートが遅れることがあります。

お弁当の時間には、アレルギー対応の確認が特に重要です。遠足のお弁当は家庭から持参するため、保護者がアレルゲンを除去した内容で用意してくれているはずですが、当日に「お弁当を忘れた」「友だちのお弁当のものを食べたがっている」といった場面が起きることがあります。こうした状況での対応方法も、事前にスタッフで確認しておくことが大切です。

行事の翌日こそ、丁寧に見る

行事が無事に終わった翌日、園ナースとしてわたしが特に気をつけていることがあります。それは、「行事の翌日こそ、丁寧に子どもたちを見る」ということです。行事当日は、高揚感と緊張感の中で体が頑張ります。アドレナリンが出て、疲れを感じにくい状態になっていることがあります。でも、その反動は翌日以降に来ます。「行事が終わった翌日から、急に体調を崩した」という経験は、保育の現場でよくあることです。

行事の翌日の朝の視診は、いつも以上に丁寧に行います。顔色、目の様子、機嫌、活気……。「なんとなく元気がない」「昨日のあの元気はどこへ行った?」という子どもが、いつもより多く見られる日です。そういう子どもには、「昨日はよく頑張ったね、疲れたね」と声をかけながら、必要に応じて体温を測り、保護者に状態を伝えます。

また、行事の疲れが出やすいのは、体だけではありません。緊張の反動で、情緒が不安定になる子どもも出やすい日です。些細なことで泣く、友だちとのトラブルが増える、保育士さんにいつも以上に甘えたがる……。こうした行動の変化も、行事の疲れのサインとして受け取ることが大切です。「昨日頑張ったから、今日は少し甘えていい日にしよう」という保育士さんの温かい判断が、子どもの疲れを穏やかに回復させることにつながります。

行事と、体力差の問題

同じ行事を体験しても、子どもによって疲れ方が違います。体力のある子どもは、行事の翌日も元気に登園してきます。でも、体力が少なめの子ども、慢性疾患のある子ども、最近体調が優れなかった子どもは、行事の疲れが長引くことがあります。

特に、慢性疾患のある子どもの行事参加については、事前に保護者と丁寧に相談しておくことが大切です。喘息のある子どもが運動会で全力疾走することは、発作のリスクになることがあります。心疾患のある子どもが長距離を歩く遠足に参加することは、体への負担が大きすぎることがあります。「参加できるか、できないか」の二択ではなく、「どのような形なら、安全に参加できるか」を、保護者やかかりつけ医と一緒に考えることが、その子の「ハレの日」を守ることにつながります。

「みんなと同じように参加できなくて、かわいそう」という保護者の気持ちは、よくわかります。でも、その子がその子なりの形で参加し、その子なりにその日を楽しめることが、何より大切です。応援席から友だちを応援する、一部のプログラムだけ参加する、遠足の目的地まで車で移動して現地で合流する……。「参加の形を工夫する」という視点が、すべての子どもにとって「ハレの日」が特別な日になるための鍵です。

行事が終わった後に、振り返る

行事が終わった後、園ナースとして必ず行うことがあります。それは、振り返りの記録を残すことです。当日の気温と天候、体調不良者の人数と症状、対応した内容、改善すべき点……。こうした記録が、次の行事の準備をより良いものにするための財産になります。

「今年の運動会では、午前中に熱中症の初期症状が出た子どもが3人いた。来年は午前中の休憩をもう一回増やすことと、日陰のスペースを広く取ることを検討する」――こういった具体的な振り返りが、来年の安全管理の改善につながります。「何もなくてよかった」で終わらせるのではなく、「何があって、どう対応して、次はどうするか」を記録しておくことが、より安全な行事運営の積み重ねになります。

行事の健康管理は、地味で目立たない仕事です。子どもたちが笑顔で走り回っているとき、保護者が歓声を上げているとき、園ナースはその場の隅で、全体を静かに見守っています。でも、その静かな見守りがあるからこそ、子どもたちは思いっきり楽しめる。そのことを、わたしは誇りに思っています。

「楽しかった」という声が、一番の報酬

行事が終わった後、子どもたちが「たのしかった!」と言いながら帰っていく姿を見るとき、この仕事の報酬を感じます。転んで泣いた子も、緊張でおなかが痛くなった子も、疲れてぐずった子も、みんな「たのしかった」という言葉と一緒に帰っていく。その言葉の中に、子どもたちの一日分の体験が、ぎゅっと詰まっています。

ハレの日を安全に楽しむために、たくさんの準備と見守りがある。その準備の多くは、子どもたちの目には見えません。でも、「たのしかった」という言葉が生まれる背景に、園ナースの仕事があると思うと、それだけで十分だとわたしは思っています。

来年も、また行事の前日に少し眠れない夜が来るでしょう。その緊張感を、これからも大切にしていきたいと思っています。子どもたちのハレの日を守ることが、保育と看護のあいだに立つ者としての、わたしの大切な仕事のひとつだから。来年の運動会も、遠足も、みんなで安全に、思いっきり楽しみましょう。その日を、今から楽しみにしています。

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