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「この子、少し気になる」と感じるとき
保育園で子どもたちと関わっていると、「この子、何か気になるな」と感じる瞬間があります。言葉の発達がゆっくりに見える、同じ年齢の子どもたちと少し違う動き方をする、特定の感覚にとても強く反応する、集団の中でうまく馴染めずにいる、切り替えがとても難しそう……。そういった「気になり」は、長く子どもたちと向き合ってきた保育士さんや園ナースの、経験から生まれる感覚です。
この「気になり」は、診断でもなければ、決定的な判断でもありません。ただ、「もう少し丁寧に見ていく必要があるかもしれない」「専門的なサポートがあれば、この子がもっと楽に過ごせるかもしれない」という、子どもへの関心と配慮から生まれるものです。その感覚を大切にすることが、発達の気になる子どもへの早期支援につながることがあります。
でも、その「気になり」を保護者に伝えることは、とても慎重に行わなければならない場面のひとつです。「発達が遅れているかもしれません」「障害があるかもしれません」という言葉は、保護者の心に深く刺さります。どんなに思いやりを持って伝えようとしても、受け取る側にとっては、大きな衝撃になることがあります。だからこそ、伝え方に細心の注意を払うことが、園ナースとして最も大切なことのひとつだと、わたしは思っています。
この記事では、発達が気になる子どもと保護者への関わりについて、園ナースの視点からお伝えしていきます。「どう伝えるか」という言葉の問題だけでなく、「どう関わり続けるか」という姿勢の問題として、一緒に考えていただければと思います。

「気になり」の正体を、丁寧に言語化する
保護者に何かを伝える前に、まず「自分が何を気になっているのか」を丁寧に言語化することが大切です。「なんか気になる」という感覚のままでは、保護者に伝えることができません。何が、どのような場面で、どのくらいの頻度で気になっているのか。その具体的な事実を積み上げることが、伝えるための準備になります。
たとえば、「言葉が遅い気がする」という気になりであれば、「同じ月齢の他の子どもたちと比べて、単語の数が少ない」「こちらの言葉への反応が、少しゆっくりに見える」「名前を呼んでも振り向かないことがある」といった具体的な観察事実に落とし込みます。「気がする」という主観的な感覚を、「こういう場面で、こういうことが見られる」という客観的な事実に変換することで、保護者との対話がより建設的なものになります。
また、気になることだけでなく、その子の「できていること」「良いところ」も同時に把握しておくことが大切です。発達の気になりを伝える場面では、どうしてもできないことや難しそうなことに焦点が当たりがちです。でも、その子の強みや、できていることをきちんと伝えることで、保護者が「うちの子のことをちゃんと見てくれている」と感じることができます。その信頼感が、難しい話を受け取るための土台になります。
チームで見る、という大切さ
発達が気になる子どもへの関わりは、園ナース一人で抱えるものではありません。担任の保育士さん、主任の先生、園長先生、そして必要に応じて外部の専門家も含めた、チームでの対応が基本です。一人の目だけで「気になる」と感じたことが、チームで共有することでより明確になることもあれば、「実は担任から見ると、こんな良い面もある」という新しい視点が加わることもあります。
保護者への伝え方についても、チームで事前に相談することが重要です。「誰が、どのタイミングで、どのような言葉で伝えるか」を事前に話し合っておくことで、保護者に対して一貫したメッセージを届けることができます。「保育士さんにはこう言われたけど、園ナースには違うことを言われた」という混乱を防ぐためにも、チームとしての方針を揃えておくことが大切です。
園ナースとしては、医療的な視点から「この気になりが、どういった発達の特性と関連している可能性があるか」を整理し、チームに提供することができます。ただし、診断を行うことは医師の役割であり、園ナースの役割ではありません。「〇〇かもしれない」という断定的な言い方ではなく、「専門家に相談してみることで、この子への関わり方が明確になるかもしれない」という方向で、チームとして動くことが適切です。
保護者に伝えるとき――言葉の選び方と、場の作り方
発達の気になりを保護者に伝える場面は、保育の仕事の中で最も難しい場面のひとつです。どんなに丁寧に、思いやりを持って伝えても、保護者が傷つくことがあります。それは避けられないことかもしれません。でも、伝え方によって、その傷つきの深さと、その後の関係性の在り方は大きく変わります。だからこそ、言葉の選び方と、場の作り方を丁寧に考えることが大切です。
まず、「いつ、どこで、誰が伝えるか」という場の設定が重要です。お迎えの慌ただしい時間に、立ち話で伝えることは避けるべきです。「少しお時間をいただけますか」と事前に声をかけ、落ち着いて話せる場所と時間を設けること。その準備だけで、保護者は「大切な話をしてもらえる」という受け取り方ができます。
面談の場では、最初から「気になること」を切り出すのではなく、まずその子の良いところ、できていること、最近の成長を具体的に伝えることから始めます。「〇〇ちゃん、最近ブロック遊びがとても上手になって、集中して長い時間取り組めるようになりましたよ」「お友だちへの優しさが随所に見られて、先生たちもいつも感心しています」――こうした言葉が最初に来ることで、保護者は「この人はわが子のことをちゃんと見てくれている」と感じることができます。その信頼感の上に、難しい話を乗せることが、伝わりやすい対話の土台になります。
「診断」ではなく、「一緒に考える」姿勢で
発達の気になりを伝えるとき、絶対に避けたい言い方があります。それは、「〇〇という障害があると思います」「発達が遅れています」という断定的な表現です。園ナースも、保育士さんも、診断を行う立場にはありません。診断は医師が行うものです。わたしたちができることは、「こういう様子が見られる」という観察事実を伝え、「専門家に相談してみることで、この子への理解が深まるかもしれない」という提案をすることです。
言葉の選び方として、わたしが心がけていることがあります。「〇〇ができない」ではなく「〇〇が難しそうに見える」、「問題がある」ではなく「気になることがある」、「障害かもしれない」ではなく「専門家の目で見てもらうと、この子に合ったサポートが見つかるかもしれない」という言い方です。同じ内容を伝えるにしても、言葉の選び方によって、受け取る側の印象は大きく変わります。
また、「相談することを勧める」という伝え方も大切です。「受診してください」という指示ではなく、「相談してみませんか」「一緒に考えませんか」という姿勢で伝えることが、保護者の主体性を尊重することになります。保護者は、わが子のことを決める権限を持っています。その権限を尊重しながら、必要な情報と選択肢を提供することが、園ナースとして誠実な関わりです。
保護者の反応は、様々だということ
発達の気になりを伝えたとき、保護者の反応は一様ではありません。「実は、わたしも気になっていて」と、すでに気づいていた保護者もいます。「えっ、そんなこと感じたことなかった」と驚く保護者もいます。「うちの子の何がいけないんですか」と怒りをあらわにする保護者もいます。「そんなはずない、ただゆっくりなだけです」と否定する保護者もいます。
どの反応も、保護者にとって自然なものです。わが子に発達の気になりがあると聞かされたとき、親として動揺しない方が不自然かもしれません。怒りや否定は、傷つきの裏返しであることが多い。その感情を正面から受け止め、責めたり言い返したりせずに、「そう感じられるのは当然です」と受け容れることが、対話を続けるための大切な姿勢です。
一度で理解してもらおうとしないことも大切です。最初に伝えた日は、保護者が情報を受け取るだけで精一杯かもしれません。「今日はここまでにして、また改めてお話しましょう」と伝え、次の機会を設けることが、保護者がじっくり考える時間を作ることになります。焦らず、急がず、保護者のペースに合わせながら、対話を重ねていくことが、長い目で見たときの信頼関係の構築につながります。
「気づいてよかった」と思ってもらえる関わりを目指して
発達の気になりを伝えることで、保護者が専門機関に相談し、その子に合ったサポートにつながった、という経験をしたとき、園ナースとしてとても大きな達成感を感じます。「あのとき、先生が言ってくれたおかげで、早く相談できました」と言っていただけるとき、あの難しい場面を乗り越えて伝えてよかったと心から思います。
早期に適切なサポートにつながることで、子どもの生活がより楽になることがあります。苦手なことを無理に頑張らせるのではなく、その子の特性に合った関わり方をすることで、子どもが自分らしく過ごせる環境が整っていく。その変化を見るたびに、「気になり」を大切にすることの意味を、あらためて感じます。
伝えることは、怖いことです。保護者を傷つけるかもしれない、関係が壊れるかもしれない、という不安は、何度経験しても完全にはなくなりません。でも、その不安を抱えながらも、子どものために必要なことを丁寧に伝えること。それが、保育と看護のあいだに立つ者の、誠実な責任だとわたしは思っています。
発達の気になる子どもと、毎日を一緒に過ごすということ
発達の気になる子どもと、日々の保育の中でどう関わるか。これは、「どう伝えるか」という問いとは別の、もう一つの大切な問いです。保護者への伝え方を考えると同時に、その子が保育園で毎日を心地よく過ごせるための工夫を、保育士さんと一緒に考えることが、園ナースとしての日常的な関わりになっています。
発達の特性は、人によって様々です。言葉の発達がゆっくりな子、感覚の過敏さがある子、切り替えが難しい子、集中が続きにくい子、反対に特定のことに驚くほど集中できる子……。その特性のひとつひとつは、「できないこと」ではなく、「その子のものの見方、感じ方の特徴」です。その特徴を理解したうえで、どう関わるかを考えることが、その子の日常を豊かにすることにつながります。
たとえば、感覚の過敏さがある子どもは、大きな音や光、特定の触感に強く反応することがあります。集団生活の中では、その刺激が積み重なって、疲れやすくなることがあります。そういう子どもには、少し静かな場所で休める時間を作る、騒がしい場面の前に声をかけて心の準備をする、苦手な感触のものを無理に触らせないといった配慮が、日常の中でできる工夫になります。
「その子に合った」を、チームで探す
発達の気になる子どもへの関わりで大切なのは、「みんなと同じ」を求めすぎないことです。集団生活の中では、どうしても「みんなと同じようにできること」が求められがちです。でも、その子にとって「みんなと同じ」が難しい場合、それを無理に求めることは、その子を必要以上に追い詰めることになります。
「その子に合った」方法を探すことが、むしろその子の成長につながります。椅子に座り続けることが難しい子どもに、少しだけ動ける時間を与える。切り替えが難しい子どもに、「あと五分したら終わりだよ」と事前に予告する。大勢の前で話すことが苦手な子どもに、小さなグループで発表する機会を作る。こうした「その子に合った」工夫は、特別扱いではなく、その子が集団の中で安心して過ごすための、合理的な配慮です。
こうした工夫を、保育士さんと一緒に考える場が、園ナースとして大切にしている時間のひとつです。「こういう場面で困っているみたいなんですが、どうしたらいいでしょう」という相談を受けたとき、医療的な知識と保育の経験を組み合わせながら、一緒に「その子に合った」方法を探す。その対話が、保育士さんへのサポートであり、その子への間接的なケアでもあります。
専門家との連携を、橋渡しする
発達の気になる子どもへのサポートを充実させるために、外部の専門家との連携が必要になることがあります。小児科医、小児神経科医、発達小児科医、言語聴覚士、作業療法士、臨床心理士……。専門家の関わりが加わることで、その子への理解が深まり、より適切なサポートが可能になります。
園ナースは、保育園と専門機関をつなぐ橋渡し役を担うことができます。「どこに相談すればいいですか?」という保護者の問いに、地域の発達支援センターや専門外来の情報を提供する。専門家から園へのフィードバックを受け取り、保育士さんと共有する。園での様子を専門家に伝えるための記録を整理する。こうした橋渡しの役割が、その子を取り巻くチーム全体をつなぐことになります。
専門家による支援が始まった後も、園での日常的な関わりは続きます。療育や訓練で学んできたことを、保育園の日常の中で自然に活かせるよう工夫することが、家庭と専門機関と保育園が一体となった支援につながります。「療育でこんなことを練習しています」という保護者からの情報を、保育士さんと共有し、「じゃあ、園でもこんな場面で試してみましょう」と動いていく。そのつなぎ目に、園ナースがいることの意味があります。
その子の「好き」を、大切にする
発達の気になる子どもと関わる中で、わたしが大切にしていることがあります。それは、「その子の好きなもの、得意なことを、ちゃんと知っていること」です。できないことや難しいことに目が向きがちな中で、「この子はこれが大好きで、こんなに夢中になれる」という事実を、いつも持っていたいと思っています。
電車の種類をすべて知っている子、図鑑を何時間でも見ていられる子、特定のキャラクターについて驚くほど詳しい子……。その「好き」は、その子の世界の扉です。その扉を大切にすること、その扉を通じてその子とつながることが、関係を築く上での大切な入り口になります。
保育と看護のあいだで、発達の気になる子どもと向き合うとき、わたしはいつも「この子の世界を知りたい」という気持ちを持つようにしています。診断や支援の方法を考えることは大切です。でも、それ以前に、「この子はどんな子か」を知ることが、すべての出発点です。その子自身を、その子の好きを、その子の感じ方を、丁寧に知ろうとすること。それが、発達の気になる子どもとの関わりにおいて、わたしが最も大切にしていることです。

