耳のこと、ちゃんと知っていますか――中耳炎・難聴・言葉の発達のつながり

園ナースの日々と小さな気づき

※本記事にはプロモーションが含まれています。

聞こえることは、育つことだ

保育園で、子どもたちの声に囲まれて働いていると、「聞こえる」ということの豊かさを、毎日実感します。「せんせい、みてみて!」という呼びかけ、友だちと笑い合う声、絵本の読み聞かせに聞き入る静けさ、泣き声、歌声……。子どもたちは、聞くことと話すことを通じて、世界とつながり、関係を育て、言葉を獲得していきます。その「聞こえる」という機能が、何らかの理由で妨げられているとき、子どもの発達に様々な影響が及ぶことがあります。

耳の問題は、目の問題と同じように、子ども自身が気づきにくいという特徴があります。生まれたときから聞こえにくい状態であれば、その聞こえ方が「普通」だと思って育ちます。また、中耳炎などによって徐々に聞こえが悪くなっていく場合も、子どもはその変化に気づきにくい。「最近、呼んでも振り向かないことが増えた」「テレビの音を大きくしたがる」「言葉の発達が気になる」――こうした周りの大人の気づきが、耳の問題の発見につながることが多いのです。

保育園という場所は、耳の問題の早期発見において重要な役割を担うことができます。毎日子どもたちの声を聞き、言葉の発達を見守り、呼びかけへの反応を観察している保育士さんと園ナースが、「この子の聞こえ、少し気になる」という感覚を大切にすることが、早期発見の第一歩になります。そして、その気づきを保護者と共有し、必要な場合には専門機関への受診につなぐことが、子どもの聴覚と発達を守ることにつながります。

この記事では、子どもの耳の健康について、保育の現場から見えることをお伝えします。中耳炎という身近な耳の病気から、難聴と言葉の発達のつながり、保育の現場でできる観察と関わりまで、園ナースとして日々向き合っていることをお伝えできればと思っています。

子どもの耳の構造と、中耳炎になりやすい理由

子どもが中耳炎になりやすい理由は、耳の構造にあります。耳と鼻をつなぐ「耳管」という管が、大人に比べて子どもでは短く、太く、水平に近い角度で走っています。この構造のため、鼻やのどで繁殖した細菌やウイルスが、耳管を通じて中耳に侵入しやすい状態にあります。風邪をひくと中耳炎になりやすいのは、この解剖学的な特徴によるものです。

保育園に通う子どもたちは、集団生活の中で様々な感染症にさらされます。風邪を繰り返すことで、中耳炎も繰り返しやすい環境にあると言えます。「うちの子、保育園に入ってから中耳炎ばかりで」という保護者の言葉を、わたしはよく耳にします。その言葉の背景には、集団生活の感染リスクと、子どもの耳管の構造という二つの要因が重なっています。繰り返す中耳炎に悩む保護者に、その理由を丁寧に説明することが、保護者の不安を和らげることにつながります。

中耳炎には、大きく分けて急性中耳炎と滲出性中耳炎があります。急性中耳炎は、細菌やウイルスによる中耳の急性炎症で、耳の痛み、発熱、耳だれなどの症状が現れます。一方、滲出性中耳炎は、中耳に液体がたまる状態で、痛みや発熱がないことが多いため、気づかれにくいという特徴があります。滲出性中耳炎は、聞こえの低下につながることがあり、言葉の発達に影響することもあります。症状が目立たないだけに、定期的な耳科的チェックが重要です。

「耳が痛い」のサインを、見逃さない

急性中耳炎の症状として最も典型的なのが、耳の痛みです。でも、言葉でうまく伝えられない乳幼児の場合、「耳が痛い」とは言わずに、耳を触る、引っ張る、頭を振る、不機嫌になる、抱っこをせがむといった行動で訴えることがあります。特に夜間に症状が悪化しやすいため、「昨夜から急に泣き続けて、耳を気にしているように見えた」という保護者からの報告が、中耳炎発見のきっかけになることがよくあります。

保育園での観察でも、こうしたサインに気づくことがあります。いつもより機嫌が悪い、耳を気にしている様子がある、呼びかけへの反応がいつもより鈍い……。発熱がなくても、こうしたサインが見られる場合は、「耳の調子が気になります、耳鼻科で確認してみてください」と保護者に伝えることが大切です。「熱がないから大丈夫」という判断が、中耳炎の発見を遅らせることがあります。

中耳炎の治療は、適切な抗菌薬の使用と経過観察が基本です。でも近年、抗菌薬に対して耐性を持つ細菌(薬剤耐性菌)の問題が医療の現場で深刻になっています。「中耳炎には抗菌薬」という単純な図式ではなく、症状の程度や原因菌に応じた適切な治療をかかりつけ医と相談することが大切です。「なかなか治らない」「繰り返す」という場合は、耳鼻咽喉科専門医への受診を勧めることも、園ナースとしての情報提供のひとつです。

難聴と言葉の発達――聞こえと育ちのつながり

言葉は、聞くことから始まります。赤ちゃんは、周りの人たちの声を聞きながら、言葉の音のパターンを少しずつ学んでいきます。「ママ」「パパ」という最初の言葉が出る前に、無数の言葉を聞いて、脳の中に言語の土台が作られていきます。だからこそ、聞こえに問題があると、言葉の発達に影響が出ることがあります。「言葉が遅い」という気になりの背景に、聞こえの問題が隠れていることがあるのです。

難聴には、先天性のものと後天性のものがあります。先天性難聴は、生まれつき聴力に問題がある状態で、日本では新生児聴覚スクリーニング検査によって早期発見が進んでいます。でも、スクリーニングで発見されなかった軽度の難聴や、後天的に生じた難聴は、保育園での日常の観察の中で発見されることがあります。後天的な難聴の原因として多いのが、繰り返す中耳炎による滲出性中耳炎です。中耳に液体がたまった状態が続くと、音が伝わりにくくなり、聞こえの低下が起きます。

滲出性中耳炎による聞こえの低下は、「水の中で音を聞いているような」感覚と表現されます。軽度の聞こえの低下でも、静かな環境では聞こえるけれど、保育室のような賑やかな環境では聞き取りにくい、ということが起きます。「先生の話を聞いていないように見える」「呼びかけに反応しないことがある」「発音がはっきりしない」といった様子が、滲出性中耳炎による聞こえの低下のサインになることがあります。こうした気づきを保護者と共有し、耳鼻科での確認を勧めることが、早期対応につながります。

言葉の発達が気になるとき、耳を確認する

「言葉の発達が気になる」という相談を受けたとき、園ナースとして最初に考えることのひとつが、「聴力は大丈夫か」という問いです。言葉の発達の遅れには様々な原因がありますが、聴力の問題は比較的早期に発見・対応できるものです。だからこそ、言葉の発達が気になる子どもには、まず聴力の確認を勧めることが、基本的なアプローチのひとつになります。

「耳の聞こえを確認してみてください」という提案を保護者にするとき、「なぜ言葉のことで耳の検査を?」と疑問を持つ保護者もいます。そういうときに、「言葉は、聞くことから始まります。聞こえに問題があると、言葉の発達に影響することがあります。耳鼻科で聴力を確認してもらうことで、言葉の発達の状況をより正確に理解できます」と説明することが、保護者の理解と受診への動機づけにつながります。

聴力検査は、子どもの年齢や発達段階によって方法が異なります。乳幼児には、音に対する反応を観察する行動観察聴力検査や、音を聞かせてその方向に振り向くかを確認する視強化聴力検査などが用いられます。3歳以上になると、音が聞こえたらボタンを押すなどの条件詮索聴力検査が可能になります。「子どもの聴力検査は難しい」という印象を持つ保護者もいますが、専門の耳鼻科では子どもの年齢に合わせた方法で検査を行ってくれます。「専門の先生に診てもらえれば、きちんと確認できますよ」という言葉が、受診へのハードルを下げることがあります。

片耳難聴という、見落とされやすい問題

難聴の中で、特に見落とされやすいのが片耳難聴です。片方の耳の聴力に問題があっても、もう片方の耳が正常であれば、日常生活の多くの場面では困難を感じにくいことがあります。静かな環境での一対一の会話では問題なく聞こえているように見えても、騒がしい環境や音の方向の把握、複数の人が同時に話している場面では、聞き取りにくさが生じることがあります。

保育園という賑やかな集団生活の場は、片耳難聴のある子どもにとって、聞き取りにくさを感じやすい環境です。「先生の話をよく聞いていないように見える」「グループ活動でうまく参加できていないように見える」「音の出る遊びで反応がいつもとは少し違う」……。こうした様子が、片耳難聴のサインになることがあります。

片耳難聴は、新生児聴覚スクリーニングで発見されることもありますが、スクリーニングをくぐり抜けてしまうこともあります。また、おたふくかぜの合併症として突発性難聴が起き、片耳の聴力を失うことがあります。おたふくかぜによる難聴は、片耳のことが多く、本人が気づきにくいため、発見が遅れることがあります。おたふくかぜに罹患した後は、聴力の確認を勧めることが大切です。その意味でも、おたふくかぜワクチンの接種は、難聴予防の観点からも重要なことだとわたしは思っています。

保育の現場でできる、耳の健康管理

耳の健康管理は、耳鼻科での専門的な治療だけで完結するものではありません。保育の現場での日常的な観察と関わりが、耳の問題の早期発見と、聞こえにくさのある子どもへの適切なサポートにつながります。園ナースとして、保育の現場でできることを整理しながら、子どもたちの耳の健康を守ることに取り組んでいます。

日常の観察で気をつけているサインをまとめると、呼びかけへの反応の鈍さ、テレビや音楽の音量を大きくしたがる、耳を気にする仕草(触る・引っ張る・頭を傾ける)、発音の不明瞭さや言葉の発達の遅れ、賑やかな場所でのコミュニケーションの困難さ、などがあります。これらのサインが一つでも見られた場合、「気になる」として保育士さんと情報を共有し、必要に応じて保護者への情報提供につなげます。

また、耳垢の確認も、日常の観察の一部です。過剰な耳垢(耳垢栓塞)が聴力低下の原因になることがあります。耳の穴が塞がるほど耳垢がたまっている場合は、保護者に「耳鼻科で耳垢を取ってもらうことをお勧めします」と伝えることが大切です。家庭での綿棒による耳掃除は、耳垢を奥に押し込んでしまうリスクがあるため、耳鼻科での処置が安全です。「耳掃除は耳鼻科で」という情報を保護者に伝えることも、園ナースにできる耳の健康教育のひとつです。

聞こえにくさのある子どもへの、保育の工夫

聴力に問題のある子ども、あるいは中耳炎の治療中で聞こえが低下している子どもが保育園にいる場合、保育の場での工夫が、その子の生活の質を大きく変えることがあります。医療的な治療と並行して、保育の現場でできる配慮を考えることが、園ナースとして保育士さんと連携する大切な仕事のひとつです。

聞こえにくさのある子どもへの保育の工夫として、まず大切なのは「話しかけるときの位置」です。後ろから、あるいは遠くから声をかけるのではなく、その子の前に回り込んで、目線を合わせてから話しかけることで、聞き取りやすくなります。また、口の動きが見えることで、言葉の理解を助けることができます。保育室の座席配置も大切で、聞こえにくさのある子どもが先生の声が届きやすい位置に座れるよう配慮することが、集団活動への参加を助けます。

騒がしい環境での聞き取りの困難さは、聞こえにくさのある子どもにとって特に大きな問題です。保育室の環境音を減らす工夫、例えばカーペットの使用や防音材の活用なども、聞き取りやすさの改善に役立つことがあります。すべての工夫が一度にできるわけではありませんが、「この子のために、できることは何か」を考え続けることが、保育と看護のあいだで子どもを支えることの本質だとわたしは思っています。

補聴器をつけている子どもと、保育園

補聴器をつけている子どもが保育園に来ることがあります。補聴器は、聞こえにくさを補うための大切な医療機器です。その子が補聴器をつけて保育園生活を送るために、保育の現場での配慮が必要になります。

まず、補聴器の基本的な扱い方を保育士さんと共有することが大切です。補聴器の電池が切れたときの対応、水やほこりへの注意、外れた場合の対応……。補聴器は精密機器であり、適切な管理が必要です。プール活動では補聴器を外す必要があることが多く、その間の対応も事前に保護者と確認しておきます。

また、補聴器をつけている子どもへの友だちの反応にも気を配ることが大切です。眼鏡と同様に、「なんでそれつけてるの?」という純粋な疑問から、からかいに発展することがあります。「〇〇ちゃんはね、音をよく聞くためのお手伝いをしてもらっているんだよ」という自然な説明が、子どもたちの理解を促します。補聴器をつけていることが、その子の個性のひとつとして自然に受け入れられる保育環境を作ることが、その子が安心して保育園で過ごすための土台になります。

耳の健康は、コミュニケーションの健康だ

耳の健康を守ることは、子どもがコミュニケーションを豊かに育てるための土台を守ることです。聞こえることで、言葉を学ぶ。言葉を学ぶことで、思いを伝えられる。思いを伝えることで、関係が育まれる。その連鎖の出発点に、「聞こえる」という機能があります。

中耳炎を繰り返す子どもに、「また中耳炎か」と感じてしまうことがあるかもしれません。でも、その一回一回の中耳炎が、適切に治療されないまま放置されれば、聞こえの低下につながり、言葉の発達に影響することがあります。「たかが中耳炎」ではなく、「その子のコミュニケーションの発達につながる問題」として向き合うこと。その視点が、耳の健康管理を単なる「耳の病気の処置」から、「子どもの育ちを支える関わり」へと変えていきます。

保育と看護のあいだで、子どもたちの声を聞き、その聞こえを守り続けること。「せんせい、きいて!」という呼びかけに、これからも笑顔で「なあに?」と答え続けられるように。その当たり前のやりとりが続く日常を守ることが、園ナースとして耳の健康に関わることの、深いところにある願いです。今日も、子どもたちの声が保育室に溢れています。その声の豊かさを、これからも大切にしていきたいと思っています。

タイトルとURLをコピーしました