命を守る準備――園ナースが考える、緊急時対応とふだんの備え

園ナースの日々と小さな気づき

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「もしも」のために、「いつも」を整える

保育園で働く園ナースとして、わたしが最も緊張感を持って向き合っているテーマのひとつが、緊急時対応です。子どもたちが安全に過ごせる日常を守るためには、「何かが起きたとき」に迷わず動けるための準備が欠かせません。そしてその準備は、緊急事態が起きてから慌てて始めるものではなく、何も起きていない「いつも」の時間に、丁寧に積み重ねておくものです。

保育園で起こりうる緊急事態は、さまざまです。子どもが突然意識を失う、アナフィラキシーショックが起きる、けいれんが始まる、誤飲・誤嚥が起きる、大きなけがで出血が止まらない……。どれも、「まさかうちの園で」と思いたい出来事ですが、集団生活の場である以上、「起きないとは言い切れない」ことばかりです。

だからこそ、園ナースは「もしも」を常に頭の片隅に置きながら、日々の保育を支えています。救急箱の中身が揃っているか、AEDの場所と使い方を全員が把握しているか、緊急時の連絡体制は機能するか、近隣の医療機関はどこか。こうした確認を定期的に行い、スタッフ全体で共有することが、備えの基本です。

「備えは、不安からではなく、責任から生まれる」とわたしは思っています。最悪の事態を恐れるのではなく、最善の対応ができるよう準備しておく。その姿勢が、子どもたちの命を守ることに直結しています。

救急対応の「引き出し」を増やす

緊急時に冷静に動くためには、知識と経験の「引き出し」を日頃から増やしておくことが大切です。研修や勉強会への参加、最新のガイドラインの確認、他の園の事例から学ぶこと……。園ナースとして、学び続けることをやめてはいけないとわたしは思っています。

特に、心肺蘇生法(CPR)とAEDの使用については、定期的に実技訓練を行うことが重要です。知識として「知っている」ことと、いざというときに「体が動く」ことは、まったく別のことです。手を動かして、声を出して、体で覚えることで、緊急時にも自動的に行動できるようになります。園ナースが率先してこの訓練に取り組み、保育士さんたちも一緒に参加できるよう働きかけることが、園全体の緊急対応力を高めます。

また、子どもの救急対応は、成人とは異なる点が多くあります。胸骨圧迫の深さや速さ、人工呼吸の量、AEDの使用方法……。小児に特化した知識を持っていることが、保育の場での救急対応では欠かせません。「大人と同じでいいだろう」という思い込みが、最も危険です。子どもの体の特性を理解したうえで、適切な対応ができるよう、常に知識をアップデートしておくことが求められます。

「誰が、何を、どう動くか」を決めておく

緊急時に最も怖いのは、「誰も動けない」状態です。パニックになって、みんなが同じことをしてしまう。あるいは、誰かがやってくれると思って、誰も動かない。そういった状況を防ぐためには、事前に役割分担を決めておくことが重要です。

たとえば、子どもが倒れたとき。第一発見者は大声で周囲に知らせる、一人は119番通報、一人はAEDを取りに行く、一人は心肺蘇生を開始、一人は園長や他のスタッフに連絡……。こうした役割を、事前にシミュレーションしておくことで、緊急時にも全員が迷わず動けます。

園ナースとして、このシミュレーションを園内で定期的に実施することをわたしは大切にしています。「先生、もしも子どもが急に倒れたら、まず何をしますか?」という問いかけから始まる訓練は、最初は戸惑う保育士さんもいますが、繰り返すうちに自信を持って答えられるようになっていきます。その変化を見るたびに、「この園は強くなっている」と感じます。

緊急時対応は、園ナース一人の力でできるものではありません。園全体がチームとして機能することで、はじめて子どもの命を守ることができる。そのチームを育てることも、園ナースの大切な役割だとわたしは思っています。

けいれんとアナフィラキシー――「見たことある」が、命を救う

保育園の現場で、園ナースが特に備えておきたい緊急事態のひとつが、けいれん発作とアナフィラキシーです。どちらも、起きたときに「見たことがある」かどうかで、初動の速さが大きく変わります。そして、初動の速さが、その後の経過を左右することがあります。

けいれんは、見ている側にとって非常に怖い出来事です。子どもが突然意識を失い、体を硬直させ、手足をガクガクと動かす。その光景に、初めて遭遇した保育士さんが固まってしまうことは、決して珍しいことではありません。だからこそ、「けいれんとはどういうものか」「けいれん中にしてはいけないことは何か」「どのタイミングで救急要請するか」を、事前に知っておくことが大切です。

けいれん発作中にしてはいけないことは、口の中に何かを入れることです。「舌を噛まないように」と口の中に指や物を入れるのは、かえって危険です。まず安全な場所に寝かせ、顔を横に向け、気道を確保する。時計を見て、けいれんの持続時間を計る。これがけいれん発作中の基本的な対応です。5分以上けいれんが続く場合、または発作が繰り返す場合は、救急要請の対象となります。

熱性けいれんと、てんかん発作の違い

保育園でよく経験するけいれんのひとつが、熱性けいれんです。発熱に伴って起きるけいれんで、多くは数分以内に自然に治まります。初めて見る保護者や保育士さんにとっては非常に怖い体験ですが、多くの場合は予後のよいものです。ただし、繰り返す場合や長時間続く場合は、医療機関での評価が必要です。

一方、てんかん発作のある子どもが入園している場合は、その子の発作の特徴と対応方法を、事前にかかりつけ医と保護者から詳しく聞いておく必要があります。てんかん発作といっても、その種類は様々で、全身けいれんだけでなく、ぼーっとする発作(欠神発作)や、体の一部だけが動く発作など、見た目ではわかりにくいものもあります。「いつもと様子が違う」という観察が、てんかん発作の早期発見につながることもあります。

園ナースとして、てんかんのある子どもを受け入れる際には、個別の対応マニュアルを作成し、担任だけでなく全スタッフが把握できるようにすることが大切です。「この子はこういう発作が起きることがある、そのときはこう対応する」という情報が共有されていることで、いざというときに誰でも適切に動ける環境が整います。

アナフィラキシー――「早く」が、すべて

アナフィラキシーは、特定のアレルゲンに対する急激で全身的なアレルギー反応です。食物、蜂毒、薬剤などが主な原因となり、皮膚症状だけでなく、呼吸困難、血圧低下、意識障害などを引き起こすことがあります。適切な対応が遅れると、命に関わる状態になることがあります。

保育園でアナフィラキシーのリスクが最も高い場面は、給食やおやつの時間です。食物アレルギーのある子どもが、誤ってアレルゲンを含む食品を食べてしまった場合、症状は数分以内に現れることもあります。「口の周りが赤くなってきた」「のどがかゆいと言っている」「急に顔色が悪くなった」――こうした初期症状を見逃さず、迅速に対応することが求められます。

エピペン(アドレナリン自己注射薬)が処方されている子どもの場合、症状が出たときに躊躇なく使用することが大切です。「様子を見てから」「もう少し待って」という判断が、命取りになることがあります。エピペンの使用タイミング、使用方法、使用後の対応(必ず救急要請)を、関わるすべてのスタッフが把握しておくこと。これが、アナフィラキシーへの備えの核心です。

アナフィラキシーへの対応は、スピードがすべてです。そのスピードを生み出すのは、事前の準備と、繰り返しの訓練です。「もしもこの子が給食中に急変したら」というシミュレーションを、年に数回は全スタッフで行うことを、わたしは強くお勧めしたいと思っています。

日常の積み重ねが、緊急時の底力になる

緊急時対応について語るとき、どうしても「その瞬間の対応」に注目が集まりがちです。でもわたしは、緊急時の対応力は、日常の積み重ねのなかで育まれるものだと思っています。普段から子どもたちをよく観察していること、保育士さんと情報を共有していること、保護者と信頼関係を築いていること。そのすべてが、緊急時に「底力」として発揮されます。

たとえば、日頃からその子の「いつも」を知っているからこそ、「今日は様子がおかしい」に気づける。普段から保育士さんと密に連携しているからこそ、緊急時にも声がよく通り、チームが迅速に動ける。保護者と信頼関係があるからこそ、緊急時の連絡もスムーズで、保護者も落ち着いて対応できる。日常と緊急時は、切り離せないものです。

「緊急時のための準備」と「日常の保育」は、別々のことではありません。子どもたちと丁寧に向き合う毎日が、そのまま緊急時対応の準備になっている。そう考えると、園ナースの日々の仕事のすべてに意味があると感じられます。

保護者への「緊急時の伝え方」

緊急事態が起きたとき、保護者への連絡は非常に重要です。そしてその伝え方には、細心の注意が必要です。パニックになって情報が不正確になってしまうこと、逆に事態を過小評価して伝えてしまうこと、どちらも避けなければなりません。

保護者への連絡は、「何が起きたか」「今どういう状態か」「園としてどう対応しているか」「保護者に何をお願いしたいか」を、できるだけ冷静に、簡潔に伝えることが基本です。「落ち着いて聞いてください」という一言を最初に添えるだけで、保護者の受け取り方が変わることがあります。

救急搬送になった場合は、搬送先の医療機関名、現在の状況、園のスタッフが誰が付き添っているかを明確に伝えます。保護者が医療機関に向かう際に必要な情報を、過不足なく伝えることが、混乱を最小限にします。

また、緊急事態の後には、保護者への丁寧なフォローも大切です。子どもが回復した後も、「あのときどういう状況だったのか」「なぜそうなったのか」「今後の対応はどうするか」を、落ち着いた状況で改めて説明する機会を設けることが、保護者との信頼を維持することにつながります。緊急時の対応だけでなく、その後の関わりまで含めて、「緊急時対応」だとわたしは考えています。

「怖い」を、「備え」に変える

緊急時対応について学んだり、訓練したりするとき、「こんな怖いことが起きるかもしれないのか」と不安になるスタッフもいます。その感覚は、自然なことです。でもわたしは、その「怖い」という感覚を、「備え」に変えることが大切だと思っています。

怖いから目を背けるのではなく、怖いからこそ準備する。最悪の事態を想定することは、悲観的なことではなく、子どもたちへの責任の表れです。「もしものとき、自分は動けるか」という問いを持ち続けること。その問いが、日々の学びと訓練の原動力になります。

園ナースとして、わたしが目指しているのは「何も起きない日常」を守ることです。でもその守りは、「何も起きなかったから何もしなくてよかった」という受け身の守りではなく、「何が起きても対応できる準備をしているから、子どもたちは安全でいられる」という、能動的な守りでありたいと思っています。

毎朝、子どもたちが笑顔で登園してくる。昼は元気に遊び、ごはんをたくさん食べる。夕方、保護者のお迎えで「またね」と手を振って帰っていく。その当たり前の一日が、たくさんの備えと、丁寧な観察と、チームの連携によって支えられている。そのことを、わたしはこれからも忘れずにいたいと思っています。

保育と看護のあいだで、「もしも」に備えながら、「いつも」を大切に。園ナースの仕事は、今日もその繰り返しの上に成り立っています。

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