眠ることは、育つこと――睡眠と子どもの健康を、保育の現場から考える

園ナースの日々と小さな気づき

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眠れている子どもは、違う

長く保育の現場にいると、「よく眠れている子どもは、違う」ということを肌で感じるようになります。朝、登園してきたときの表情の明るさ、一日を通じた活気の安定感、感情の波の穏やかさ……。十分な睡眠をとっている子どもには、どこか落ち着いた充実感があります。逆に、睡眠が足りていない子どもは、午前中から目が重そうで、些細なことで泣いたり怒ったりしやすく、給食もあまり食べられないことが多い。睡眠の質と量が、その日の子どもの状態に直接影響していることを、毎日の観察の中で感じ続けています。

睡眠は、単なる「休息の時間」ではありません。眠っている間、子どもの体と脳は、猛烈に働いています。成長ホルモンが分泌され、体の組織が修復・成長する。昼間に学んだことが記憶として整理・定着される。免疫機能が強化される。感情の調整に関わる神経系が整えられる……。睡眠は、子どもの成長と発達にとって、なくてはならない能動的なプロセスです。「寝ている間も育っている」という言葉が、決して比喩ではないことを、わたしは保育の現場で実感しています。

だから、睡眠の問題は、健康管理の問題としてとても重要です。「うちの子、なかなか寝てくれなくて」「夜中に何度も起きてしまって」という保護者の声は、保育園でとてもよく聞きます。その悩みを「子育てあるある」として軽く流すのではなく、「その子の睡眠に何か課題があるかもしれない」という視点で受け止め、一緒に考えることが、園ナースとしての関わりです。

この記事では、睡眠と子どもの健康の関係について、保育の現場から見えることをお伝えしていきます。「どうすれば寝てくれるか」という即効的な答えではなく、「なぜ眠ることがこんなに大切なのか」「睡眠の問題がある子どもに、どう関わるか」という、少し広い視点でお伝えできればと思っています。

年齢によって違う、必要な睡眠時間

子どもに必要な睡眠時間は、年齢によって異なります。一般的に、乳児期(0歳)は一日に14〜17時間程度、幼児期(1〜2歳)は11〜14時間程度、保育園に通う年齢(3〜5歳)でも10〜13時間程度の睡眠が必要とされています。大人の睡眠時間と比べると、子どもがいかに長い睡眠を必要としているかがわかります。

これらの数字はあくまでも目安であり、個人差があります。同じ年齢でも、9時間で十分な子どももいれば、12時間眠らないと調子が出ない子どももいます。大切なのは、その子にとって「十分な睡眠がとれているか」を、数字だけでなく、昼間の様子で判断することです。日中に眠そうにしている、機嫌が不安定、集中が続かない、食欲がない……。こうした様子が続いているなら、睡眠が足りていない可能性があります。

保育園でのお昼寝(午睡)は、特に低年齢の子どもたちにとって、一日の睡眠時間を確保するための大切な時間です。午睡によって、午後の活動のための体力と集中力が回復します。また、午睡中に分泌される成長ホルモンが、午前中の活動で消耗したエネルギーを補い、体の修復を促します。「お昼寝は、ただ休むだけ」ではなく、子どもの成長を支える大切な時間として、保育の中に位置づけられています。

「寝付けない」「夜中に起きる」の背景を考える

「寝付くのに時間がかかる」「夜中に何度も目が覚める」「朝早く起きてしまう」――こうした睡眠の問題を抱える子どもは、保育園にも少なくありません。その背景は様々で、生活リズムの乱れ、日中の活動量の不足、寝室の環境、就寝前のスマートフォンやテレビの視聴、心理的なストレスや不安など、複合的な要因が絡み合っていることが多いです。

「なかなか寝てくれない」という保護者の悩みを聞くとき、わたしはまずその子の一日の過ごし方を丁寧に聞くようにしています。何時に起きて、何時に保育園に来て、午睡はどのくらい寝ているか、夕方以降はどう過ごしているか、何時に布団に入って、実際に眠れるのは何時頃か……。その流れを聞くだけで、「ここに課題があるかもしれない」というポイントが見えてくることがあります。

たとえば、午睡が夕方近くまで長く続いている場合、夜の就寝時間が遅くなることがあります。逆に、日中の活動量が少なすぎると、体が疲れていないために寝付きが悪くなることもあります。就寝直前までテレビやスマートフォンの画面を見ていると、ブルーライトの影響や脳の覚醒によって、眠りに入りにくくなることがあります。こうした「生活の中の要因」に気づき、少しずつ改善していくことが、睡眠の問題へのアプローチの出発点になります。

保育園のお昼寝と、家庭の睡眠をつなぐ

保育園でのお昼寝と、家庭での夜の睡眠は、切り離して考えることができません。午睡の時間や質が、夜の寝付きや睡眠の深さに影響することがあります。だから、保育園での睡眠の様子を保護者に伝えることと、家庭での睡眠の様子を保護者から聞くことの、両方が大切です。

「今日はお昼寝をいつもより長く寝ていました」「なかなか寝付けず、今日は30分しか眠れませんでした」「途中で目が覚めてしまい、その後は眠れませんでした」――こうした午睡の情報を、お迎えの時間に保護者に伝えることが、家庭での夜の寝かしつけの参考になることがあります。「今日は長く寝たから、夜は少し遅くなるかもしれない」という予測が、保護者の心の準備につながります。

逆に、保護者から「昨夜はなかなか寝なくて、結局寝たのが11時を過ぎてしまいました」という情報をもらったとき、「今日は午睡を少し長めにとれるよう配慮しましょう」と保育士さんに伝えることができます。家庭と保育園の睡眠情報を双方向でやりとりすることで、その子の睡眠全体をより丁寧に管理することができます。

午睡の環境づくり――安心して眠れる場所

保育園でのお昼寝の環境は、子どもが安心して眠るための大切な要素です。適切な室温と湿度、静かで落ち着いた雰囲気、柔らかな光、自分のコット(簡易ベッド)や布団……。こうした環境が整っていることで、子どもは安心して眠りにつくことができます。

特に、乳児クラスの午睡では、安全管理が最も重要な要素のひとつです。うつぶせ寝による事故のリスクを防ぐために、定期的な呼吸確認が必要です。多くの保育園では、乳児の午睡中に5分おきや10分おきに呼吸を確認するルールを設けています。この確認を確実に行うことが、乳児の午睡中の安全を守ることに直結します。

また、「なかなか寝付けない子」への対応も、午睡の時間には必要です。眠れなくても、横になって体を休める時間として過ごすことができれば、それだけでも体の回復につながります。無理に眠らせようとして、子どもが午睡の時間を苦痛に感じてしまうことは避けたい。「眠れなくてもいい、でも体を休める時間」という伝え方が、子どもの午睡への抵抗感を和らげることがあります。

睡眠と発達の、深いつながり

睡眠は、子どもの発達と深く関わっています。特に、脳の発達において、睡眠は重要な役割を果たしています。昼間に見たこと、聞いたこと、体験したことは、睡眠中に脳の中で整理され、記憶として定着します。「眠ることで、学びが定着する」という仕組みは、子どもにとって大人以上に重要です。

言語の発達においても、睡眠は重要な役割を果たしていると考えられています。新しい言葉を覚える、文法的な規則を習得する、言葉の意味を理解する……。こうした言語発達のプロセスに、睡眠中の脳の活動が深く関わっていることが、研究によって示されています。「昨日覚えた言葉が、今日起きたら言えるようになっていた」という保護者の驚きは、睡眠中の学習定着の実例かもしれません。

感情の発達においても、睡眠は欠かせません。十分な睡眠がとれている子どもは、感情の調整がしやすく、ストレスへの耐性も高い傾向があります。逆に、睡眠不足の子どもは、些細なことで感情が爆発しやすく、友だちとのトラブルも起きやすくなります。「最近、すぐ泣いたり怒ったりして困っています」という保護者の悩みの背景に、睡眠不足が隠れていることがあります。その可能性に気づき、睡眠の状況を確認してみることが、問題解決の糸口になることがあります。

睡眠の問題が、長引くとき

生活リズムを整えたり、就寝前の環境を改善したりしても、睡眠の問題が改善しない場合があります。そういうとき、医療的な背景がある可能性も考える必要があります。睡眠時無呼吸、中耳炎による耳の痛み、アトピーなどによる皮膚のかゆみ、夜尿症、夜驚症(睡眠中に突然大声で泣き叫ぶ)……。こうした医療的な要因が、睡眠の問題に関わっていることがあります。

「試せることは試したけれど、なかなか改善しない」という状況が続くとき、かかりつけ医への相談を勧めることが大切です。「睡眠の問題くらいで小児科に行っていいのかな」と遠慮する保護者もいますが、睡眠は子どもの健康と発達に直結するものです。「もう少し様子を見て」と先送りにするよりも、専門家に相談することで、早く解決の糸口が見つかることがあります。その一歩を踏み出すきっかけを、園ナースとして作ることができれば、と思っています。

「よく寝てね」という言葉に込めた思い

お迎えの時間、子どもたちが保護者と一緒に帰っていくとき、わたしはよく「今夜もよく寝てね」と声をかけます。何気ない一言ですが、その言葉には、園ナースとして心から願っていることが込められています。今夜たっぷり眠って、明日また元気な顔を見せてね。その小さな願いが、毎日のお見送りの言葉になっています。

睡眠は、子どもにとって最大の回復手段です。風邪をひいたとき、けがをしたとき、心が疲れたとき、体が疲れたとき。「よく眠れば、だいぶよくなる」ことは、医学的にも裏づけられていることですが、それ以上に、現場での実感としてわたしの中に刻まれています。「昨日ゆっくり眠れたみたいで、今日は表情が全然違いました」という保育士さんの言葉を、何度聞いたかわかりません。

だから、睡眠を大切にすることは、子どもの健康管理の中で最もコストがかからず、最も効果的な手段のひとつだとわたしは思っています。高価なサプリメントも、特別な治療も必要ない。ただ、十分に眠ること。その当たり前のことが、子どもの体と心を整え、成長を支えます。

保護者自身の睡眠も、大切に

子どもの睡眠について保護者と話すとき、もう一つ伝えたいことがあります。それは、「保護者自身の睡眠も、大切にしてください」ということです。子どもの夜泣きや夜中の授乳、寝かしつけに時間がかかること……。乳幼児を育てる時期は、保護者の睡眠が慢性的に不足しやすい時期でもあります。

睡眠不足の保護者は、感情の調整が難しくなり、判断力が落ち、体調も崩しやすくなります。それは、保護者自身の問題であると同時に、子どもへの関わりの質にも影響します。疲れ果てた状態では、子どもの小さなサインに気づくことも、穏やかに関わることも、難しくなってしまいます。

「子どもが寝たら、自分も寝てください」という言葉を、子育て中の保護者によく伝えます。「子どもが寝た後の時間を自分のために使いたい」という気持ちはよくわかります。でも、睡眠不足が続くと、その余裕の時間自体が楽しめなくなってしまいます。まず自分が眠ること。それが、長い子育てを続けるための、最も基本的な自己ケアだとわたしは思っています。

夜の保育園で、思うこと

保育の現場で長く働いていると、「夜」というものへの見方が変わってきます。子どもたちが帰った後の保育室は、静かで、昼間の賑わいが嘘のようです。その静寂の中に、今夜も全国のどこかで、子どもたちが眠っている。お父さんやお母さんに寝かしつけてもらいながら、あるいは一人で眠りについている。その眠りの中で、今日一日の体験が整理され、明日への力が蓄えられている。そう思うと、夜という時間が、とても豊かなものに見えてきます。

眠ることは、受け身の行為ではありません。眠りの中で、子どもは育ち、学び、回復します。その能動的なプロセスを支えることが、睡眠を大切にすることの意味です。保育園での午睡を丁寧に管理すること、家庭での睡眠について保護者と対話すること、睡眠の問題が長引くときに専門家につなぐこと。こうした関わりのすべてが、子どもの眠りを守ることにつながっています。

明日の朝、子どもたちが元気に登園してきてくれることを願いながら、今日も保健室の灯りを消します。よく眠れますように。また明日、元気な顔を見せてね。その小さな願いが、保育と看護のあいだで働くわたしの、毎晩の思いです。

生活リズムという、見えない土台

睡眠の話をするとき、切り離せないのが「生活リズム」の問題です。毎日同じ時間に起き、食事をし、活動し、眠る。この規則的なリズムが、子どもの体内時計を整え、睡眠の質を高める土台になります。生活リズムが乱れると、眠れない、眠りが浅い、昼夜逆転するといった問題が起きやすくなります。

保育園に通うことは、生活リズムを整える上で大きな助けになっています。毎朝決まった時間に登園し、決まったスケジュールで一日を過ごす。この規則性が、子どもの体内時計を整え、夜の睡眠の質を高めることにつながっています。「保育園に通い始めてから、夜の寝付きがよくなった」という保護者の声を聞くことがありますが、それはまさに、生活リズムが整った効果だと思います。

長期休みや週末に生活リズムが崩れると、休み明けに体調が整わない子どもが出やすくなります。「お盆明けは、なんとなく体調の悪い子が多い」という経験は、園ナースとして毎年感じることです。休みの間も、できる限り普段の生活リズムを保つことの大切さを、長期休みの前に保護者にお伝えすることも、健康管理の予防的な関わりのひとつです。生活リズムという見えない土台が、子どもの健康と睡眠を支えている。そのことを、これからも伝え続けていきたいと思っています。

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